視線と風景

 本日中国地方に梅雨明け宣言。梅雨が明けて一気に夏が来た。学生達もちょうど夏休みに入って、明日明後日が連休という事もあって、でもって今日は土曜日という事もあって、なんだか町中が浮き足立っているような感じがする。僕の住んでいる町内会でも今日祭りがあるし。
 そんな一日。虫取り網と虫かごを下げた幼い女の子を見かけた。虫かごの中には水が入っていて、小魚だか、ざりがにのような生き物が入っている。女の子は水路の前でしゃがみ込んで、虫取り網をしっかりと握りながら、流れる水の中をじっと見つめている。小さな赤いワンピースに、夏の始まりを告げるような焼けた肌を包んで、汗で髪の毛を濡らしながら。
 彼女の視線の先にあるものは何か。水路を泳ぐ小魚か、あるいは川エビか。そのまたさらに先にある、宇宙の欠片のようなものなのか。それが何であったにせよ、その視線は今この瞬間を美しく昇華させるものであり、言い過ぎである事を承知の上で言うならば、その視線は成長と共にやがて失われてしまうものなのかも知れない。
 そんな風景が、ここにはある。
 蝉の声は群れをなして轟音のように迫って来る。
 2010年の夏が始まった。