あちらこちらで桜も咲き始め、ぼちぼち春らしくなってきました。この時期になると毎年思うのだけど、やっぱり今年も思うのです。春はなんて奇妙な季節なんだろうと。
 
 森の中で長い間冬眠していだ動物達が土の中でふと目を醒まして、むっくりと地上に這い上がってくる。その際、彼ら(彼女ら)の意識はまだ完全には覚醒しておらず、おそらくは鼻面に靄をかけられたような状態であり、したがってその動きは酷く曖昧で不完全だ。
 そんな感じが、春という季節にはある。
 だから春は奇妙なんだ。
 
 あるいは、僕の身体のどこかにも深い森のような場所があって、そこで長い冬の間に土の中で眠り続けていた小さな動物がいるのかも知れない。そして彼(彼女)が今、土の中から這い上がり、頭だけを地上に出して、きょろきょろと辺りを窺っているのだ。しかし彼(彼女)の鼻面にはまだ濃いめの靄がかかっているので、視界もそれほど良好であるとは言えない。その靄が晴れるまで、彼(彼女)は開かれた地上に頭だけを出して、その時がくるのをただひたすらに待っている。
 そんな感じが、春という季節にはある。
 だから春は嫌なんだ。
 
 
 とは言わない。どちらかと言えば、僕は春が好きな方です。
 
 だからこそ、春は奇妙であると言える。